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2008年2月 3日 (日)

死を覚悟した瞬間-後退する熊

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やがて熊は驚いた行動をとる。

なんと熊は愚生を睨みつけたまま少しずつ、ほんの少しずつではあるが後退りするではないか。

しかし絶対に愚生の眼から視線をずらさず、後ろを決して振り返る事もなく、静かにまるで後肢の掌面に全ての知覚神経を集中しているがの如くゆっくり、ゆっくりと後退する。

やがて熊は川から岸にあがり後退りを止め、その距離8mになる。

水中に沈んで見えなかった熊の肢が現れる、よく視ると毛で覆われた大きな掌の前面に黒光りする太くて短い、まるで鋼の様な爪がある事が分かる。

さあその強烈な武器でいよいよそこから岸伝いに近づき、一気に襲ってくる気なのか。

熊が覆いかぶさってきたなら、そしてもし一発で遣られなかったなら川の中で取っ組み合いも覚悟する。

何時もポケットに護身用に携帯しているバックのナイフの事など恐怖のあまり全く思いもつかず、背中にあるザックを素早く捨てなければ邪魔になるなんて、今思えば間抜けな、ピントのずれた事しか思いつかない。

こいつが川原の8m先から前進して来るなら、いよいよ.....。

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所がなんということだろう、

信じられない事に熊は愚生を真正面に見据え睨んだまま、再びほんの少しずつではあるがゆっくりと後退りをはじめるではないか。

やがてうれしい事にその後退速度が少しずつ、ほんの少しずつ速まる。

熊は大きな石がごろごろ転がっている川原を後方を振り向く事はせず器用に後退し続け、愚生との距離が20mと開いたとき、熊ははじめて目線をそらし後方を一瞬ながら振り向く。

その後も熊は此方を睨みながらゆっくりと後退、数回後ろを振り返り、愚生との距離が約30m位になった時に素早く向きを変え、駆け足で対側の急峻な崖を登り、鬱蒼とした藪の中に駆け込み消えた。

助かった瞬間だった、

川の中にぽつんといた愚生、やっと身動きが取れるようになり、流されないようにゆっくり川からあがり大汗を拭う、何ともいわれぬ安堵感におおわれた事を覚えている。

この勝負は愚生の勝ちだ、まさに地獄から天国への瞬間であった。

愚生が熊をさきに見つけて逃げなかった事が幸いしたのではなく、きっと逃げられない場所にいた事が幸運をもたらしたのだろう。

熊と愚生のこの勝負、互いに川の中でなかったなら結果はどうなっていたのだろう。

                     -続く

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コメント

熊とも睨み合いで目をそらさなかった事が勝因(?)ですね。そこで一瞬でも視線を外していれば・・・・この日記を書く事もなかったかもしれませんねぇ。

投稿: ASA | 2008年2月 4日 (月) 20時27分

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