2009年3月21日 (土)

イトウ、タイメン、興安マグロ

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日本でイトウ、ロシアではタイメンと称され、釣り師を魅了する所か、釣り師の人生そのものまで変えてしまうお魚さんである。

漫画、釣りキチ三平の矢口高雄さんが中国ハン陽から列車で20時間、農耕車で湿地帯に分け入り、さらに4時間、最果ての川に日本で一番乗りと喜んでいたら、白いあごひげを蓄えた日本人に出会う、それが週刊釣り情報の小西和人であり、イトウを釣っていたとある。(朝日新聞より引用)。
常人では考えられないイトウ釣りの魔力は喩えるなら原理的シャーマニズムに近いものがあるのかもしれない(笑)。

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イトウ釣りでは開高 健が有名だが数十年前、神田古書街で入手した、今野 保著、「秘境釣行記」中公社出版の中にも朴訥な語り口ながら、イトウ釣りの度肝を抜く、凄まじい獲り込みの様子が詳細に紹介されている。

昭和16年、筆者は中国の奥地でどうにか手に入れた綿糸、オモリとなるナット、自製の釣り針、そして餌となるスズメ2羽を袋に入れ一人で馬に乗って深淵のあるハルハ河の支流に向かった。
綿糸を柳の枝に結び待つ事30分、そのスズメを餌にした仕掛けに巨大なイトウが掛かり、釣竿等はなく両手で紐を引っ張るがズルズルと川面に引っ張られる始末、やもうえず近くにいた愛馬の鞍にミチ糸ならぬ紐をくくり付けて引かせ、苦労した挙句にやっと浮いた魚体は2.3メートル位であったが獲り逃がしてしまった。
翌日、筆者は軍隊仲間数名と伴にトラックに乗り込み再度行き、今度は川で火薬を爆破させて浮いたイトウを仲間と伴に危険覚悟で手づかみにした。
捕えた中で最大のイトウは体長2.8メール、太さ2メール、それより大きいイトウは逃げてしまった。
そして脂ののったイトウを皆で刺身にして美味しく食べた。
この巨大魚を中国では興安マグロと呼ぶそうだが、著者には北海道に棲むイトウとしか見えなかった・・・・・以上、要点のみ抜粋。

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昨日の新聞紙上で、「幻の魚、イトウの保護条例が道央の南富良野町で制定」とある。
川を守る事は即ち木を、森を守ること、快挙である。

これが無規制で激減している渓流魚復活にむけた静かな革命のはじまりになればいいのだが。

釣り師は少しだけ、我慢しよう!
2メートル以上に成長する事を夢見て、応援しようではないか!

余談だが、キャッチ、つまり釣る技術以上に、リリースする技術のほうが難しい。
北米のある所では子供に対して、釣り挙げる技術より、針外しの方法、渓流への逃がし方を、そしてクーガ、熊から身を守るすべを最初に教えている。

今、オーストラリアニュージーランドに限らず北米でも在来の大型魚を乱獲から守り、生息数を増やし、世界中の釣りキチが集まって来て、一大産業が成り立っており、ネイティブインディアンのガイドも沢山いる。

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2008年10月31日 (金)

一休さんとMDMA

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今日、直接、麻薬取締り官のお話を聞く機会があった。
昨今、MDMA(合成麻薬、通称エクスタシー)、若しくはある種の麻薬と併用する事例が急増しているらしい。

その効果はupperとdownerがあるとの事。

upperの特徴はクラブなどで高音で流れる音楽が、形として自分に迫ってくると云う様な表現がなされ、逆にdownerの特徴はうつむき、一点を深く集中するらしい。

脳内のドーパミン、セロトニン神経系が一時的に混乱をきたし、色んな副作用が出現するのだろう。

MDMAは一時的にしろ、己を騙すということか。

釣りも瞬時に脳内をドーパミンで満たし、己を騙すということか。

お酒を飲む事も、己を騙すということか。

ならば三者に共通するのは快楽、多大なる習慣性、そして自己破滅の危険性であろう(笑)、違いは法規制の有無だけという屁理屈も成り立つが.....(大笑)!!

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ひろさちや著、「日本仏教の創造者たち」にも記載されている、
一休宗純禅師は己を騙す快楽をあえて’非常識の禅’のなかで、

「世の中は 食うて糞して寝て 起きて さてその後は何たらよ」、
ワッハッハッと見事な句で’無常’を説いている。

師がもしも存命だったならばMDMAを使ったかもしれないと思うほど、不思議で、魅力的な思想家でもある。

みこころをいまだに理解しえない愚生、禅は大嫌いでも、膳は大好きで、庶民のヒーローであった一休さんの大ファンであり、大いなる矛盾のかたまりでもある。

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2008年10月27日 (月)

不適格者

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この男、湯にでも浸かりながら、そろそろ退職後の人生を、鼻歌混じりに能天気に考えているのか、それとも、何れ出版するであろう自画自賛しまくった自叙伝の印税でもにやけながら計算しているのやら。

NY9.11テロ以降、屁理屈をこね回してイラクに戦争を仕掛け、そのぼろを覆い隠す為、低金利政策を取り続けた挙句に、サブプラ問題を勃発させ世界が震えあがっても、あとは知らん、さよならーとまったく気楽なもんである。

後世にも長く政治学、経済学に於いて無能、或いは悪玉としてだけではなく、ヒットラー、金 正日よりもなお醜悪な政治家として語り継がれる事だけは間違いない。

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就任以前よりこの男の適正を問題視するマスコミ報道があった。

アングロサクソンなら子供でも理解している、イスラムに対し決して使用してはならない’十字軍’なる単語を平気で使ってしまい、後ほどアメリカ政府高官が躍起となってイスラム各国を訂正に走り回ったドタバタ劇などは、ある意味で関西の間抜けなお笑いを見るより可笑しかった。

nuclearをnuke-you-larと発音してしまう悪癖なのか、言語能力に支障があるのか分からないが、事前に発音が記載されたカンニングペーパーがwebsiteになぜか流れてしまい、中高生にも失笑を買うなど、話題性には事欠かないが無知、無教養に加え、極右に近い短絡的思考回路を併せ持つ政治家でもあった。

不可抗力、偶然ならまだしも、何年も前からノーベル経済学賞受賞者のクルーグマン教授、スティグリッジ教授らからも爆弾を抱えたマネーゲームとも揶揄されたその手法に何度も警告を受けていたにも拘わらずである。

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政治家の最低限の役目は簡単にして明瞭、戦争を起こさない事、そして経済危機を起こさない事である。

あまりにも初歩的ミスにより、世界経済を奈落の底に突き落としてしまったせめてもの罪滅ぼしとして、就任期間中の報酬くらい返却すべきだと思うが如何ですかねー、

ブッシュさーん!!

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2008年10月23日 (木)

古本屋巡りと釣り

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共通するものはただ一点、見逃した新たな感性との出会い、驚き、そして興奮か。

好奇心の旺盛であった貧相な学生時代の昭和40年代、神田神保町の古本屋通リをよくたむろしたが、愚生の欲した稀本を見つけるのは至難の業であった。

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何となく、かび臭い古本屋の奥に鎮座し、読書にふけっている近寄り難い頑固そうなオヤジ店主のイメージはどこか似かよっていた。

クールでスマート、眼鏡の奥に済んだ冷徹な眼を有し、愚生を一瞥後、瞬時に見下し、「なんしに来たんだ、コノヤロ!」とまでは言わないまでも(笑)、「お前に我が書店の大事な古書は売りたくない」といった、気だるい対応、物腰であった事を思い出す。

その頃に入手した古書のうち数冊は今でも、我が家の第一級お宝である。

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昼過ぎにはいつも早稲田の?近くの安いレストランに入る。
お金が無いので(笑)いつも300円のラーメンの大盛りを注文、周りを見渡すと時には、買い求めた文系の古本をテーブルの端に高く積み上げ、いかにも勝誇ったかの様に超豪華な、何たら焼肉定食を喰っていやがる、生意気そうな学生を見かけると無性に腹が立った(笑)。

苦労して探索中の古書を発見した時の心模様はちょうど雨あがりの夕刻、誰も入渓しない、済んだ渓相の流で、ルアーの着水点周りに、瞬時に銀色にはしり輝く魚体を見た時と見事に一致する。

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お客は皆、静かに買っていたが愚生、「あまりお金がないので、まけて下さい」!とよく値引きしてもらったがその時はどのオヤジの顔も一様に呆れかえった表情だった。

そのうちに、通い慣れた古本屋のなかには、いつの間にか愚生の好みそうな古本をさりげなく一箇所に陳列してくれたり、何も言わずに値引きしてくれるオヤジの無愛想ながらもその江戸っ子気質がとても嬉しかった。

なにせweb検索、faxなどありもせず、全て一対一のやり取りが面白くもあり、購入した古書の元の所有者の素性、由来を聞くのも楽しいものだった。

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若かりし頃、一度だけ、怒られた事がある。
ついうっかり、「値段ってどうやって決まるの」と聞いてしまった(笑)。

素晴らしい古書の文化を消失させてはならない。

日本中の古本屋のオヤジ達、!!

元気かー!!

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2008年10月13日 (月)

釣り師の鼻水

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10月12日、秋の渓流釣りを与作と一緒に友人らと楽しむ。

すっかり、紅葉、黄葉がすすみ、下界とは全くの別世界、雄大な自然の中で釣り糸を垂れる。

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寒くて、ウェーダーを通して伝わってくる感触は既に冬、透明度の高い川面には落ち葉が漂い、川原に鹿の足跡は沢山残っているが熊の足跡は何故か見当たらない。

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釣りとは不思議なもので、大物のお魚さんが針針に掛かり、やり取りしている時は下界の諸事は忘れ、頭の中が真っ白なのに待ち時間が長くなると何故か雑念にかられる。

昨夜、ニュースで流れたロス疑惑の三浦和義氏の人格を演技性人格障害というなら、そして同じく作家の故三島由紀夫の人格を自己愛性人格障害というのであるなら、これらに共通するのは第三者の視線に対する屈曲した過剰反応か。

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こんな山奥で、熊におびえ、身も凍る様な冷水に何時間も浸かり、手足は震えて次第に感覚は薄れ、唇は紫色に変わり、鼻水の滴下にも気付かず、そのうちに思考能力が低下してもなお狂人的釣りを続ける輩はさしずめ’釣人性人格障害’とでもいえる。

そこには比較、競争、ましてや薄っぺらな優越感もなく、誰も見てやいやしない大自然の中のちっぽけな自己満足程度のものか。

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2008年9月29日 (月)

新世代の熊

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9月28日、4時間ほど与作と渓流に行き、釣り、写真撮影を楽しむ。

遠くに見えるイドンナップ岳山頂は既に冠雪、山道はもう初秋のたたずまい。

外気温は10度、手が凍える、寒い!!

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本流の流れ込みで痩せた40cm足らずのアメマスが喰い付くが直ぐ逃がしてあげる。

腹はペチャンコ、こいつ食欲減退か??

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帰り際に、与作がtwinの小熊を連れた通過して間もないメス熊の足跡を見つけた。山裾の藪に消えているその足跡の臭いを嗅ぎ、探しまわるが発見できずに帰ってくる。

母熊の右前足跡の横径が約17cm、縦径が約22cm、右後足跡の横径は約16cmで踵跡はない所から忍び足か(笑)。常歩で母熊の左側を歩く小熊はもう一頭の母熊の前または後を歩く小熊の足跡より少し大きめなので子供達はオスとメスかな?

両小熊の足跡は共にもみじの葉に似ているが犬族は熊の足跡に自らの鼻先を摺り寄せ、足踵部にある汗腺、脂腺より分泌された特有の臭いを嗅ぎわけ他の動物と瞬時に区別する能力をもっている。

その後、沢伝いの帰り道で先程の熊が入った小高い山の反対側で視界の開ける所に出ると、一瞬ではあったが黒い影が眼に入る。横を一緒に歩いていた与作もほぼ同時に気付き、ドスの効いた呻り声を発し、勢いよくその方角に走り出す。

小熊を連れていては、おのずから行動も制限されるのだろう、やがて頂上付近で睨み合いになったのであろうか、こちらからは全く見えないが、約150メートル先で気合の入った与作の大きな呻り声が場所を移さず、藪のガサガサする音と一緒に聞こえくる。

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もし、相手が鹿ならこの時期の体毛はネズミ色、しかも逃げ足が速いので与作の呻り声は次第に遠のくのが普通だが今回は殆ど移動しない。

きっと、先ほどの熊だろう!!

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万が一、熊の親子がこちらに向かって走って来たら、かなわないので(笑)身を低くして岩陰に隠れ、決定的一瞬を撮ってやろう(笑)なんてカメラを構えていたが約10分間程大騒ぎの後、与作が勝ち誇った様に帰ってきた。

勿論、怪我はなく口の周囲にも熊の毛髪、血液の付着もなかった。

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与作は離乳時より熊肉、鹿肉を与えていたのでご馳走とでも思ったのだろうが実際には決して喰い付かないように厳命してある。(笑)

熊にとって数十メートル先にいる、いちばん怖い筈の人間の存在を探知できないわけがない、これは熊自身の防衛本能が希薄化してきている証でもある。

まもなく、狩猟が解禁される。
昔の猟師は命中精度が悪く、連射の出来ない村田式?とかいわれる単発銃を用い一人で熊と対峙したそうだが、現在は大人数で精度の高いライフル銃を使用している。

最近の人を見ても逃げない’新世代の熊’は簡単に射殺されてしまう事だろう。

この熊ファミリーにとって与作との出会いはどれほどの人生勉強になった事か!!

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2008年2月 5日 (火)

死を覚悟した瞬間-エピローグ

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横たわるメス鹿を目の前にして、友人と’こんなご馳走をみすみす置き去りにするなんてもったいない’と意見が一致、携帯していたバックのナイフで鹿を解体、美味しそうな所を持ち帰った。

その夜はしめやかなお通夜ならぬ反省会の筈が次第に元気付き大宴会の貴重な食材となった事は言うまでもない。

後日談

経験豊かな数人のハンターに聞いてみた所、
異口同音にそれほど大きい熊は今では足跡すら殆んど見かけなくなったとの事。

推測だけれどその熊は崖に鹿を追い込み、滑落させて鹿を獲っていたのではないかと貴重なアドバイスを受ける。

ましてや熊の獲物を横取りするなんてそんな危険な事は絶対にしては駄目ですよと厳重に忠告された。

それで熊が潜ったり右に左に泳いでいた理由が理解できた。

きっと我々の解体する鹿を岩陰からでも臭いを嗅ぎ、恨めしそうに眺めていたのだろうか。

今思うと高く掲げた釣り竿が熊の眼には大きな武器と写ったのだろうか。
真偽の程は解らないが愚生の命を守ってくれた武器としてその釣り竿は一生の思い出として残してある。

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王者のみに許されるであろう周囲を睥睨するような威厳、落ち着き、威圧感を漂わせた野生動物の頂点に君臨するデカイ熊との睨めっこ、この世のものとは思えない凄まじいプレッシャー。

一言で表すなら、無言、無表情の恐怖だろう。

前後の事は覚えているが睨み合いの時間は明確に覚えていない、凡そ15分位だったと思うが或は30分位だったのかもしれない、なぜか思い出せない。

それ以降、釣りのお供として与作を飼い始める。

その後、与作が藪から逆に熊を追い出して来た事も含め、数度熊を見かけているがどれもせいぜい80-130kg、黒色毛の小物ばかりである。

例えば偶然撮影できた、「死を覚悟した瞬間-はじめに」にアップした車の前を逃げる熊は黒色で一見大きく見えるが凡そ80-90kg、3歳前後と思われる。

背に渋く黄金色に輝く長毛を持ち、あれほど大きな黒褐色に輝く熊にはその後出会っていない。

素晴らしい一期一会だったのかもしれないなんて能天気なことを思っていたら、その後、愚生の知る限り、その近くでハンターが一人熊に襲われ重症、又、作業員が熊に後頭部を一撃され死亡等々の事故を聞かされる。

                        終わり-

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2008年2月 4日 (月)

死を覚悟した瞬間-熊の餌

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でっかい熊は逃げていった。
ここで大方の釣り師は藪から此方を視ているかもしれない熊を恐れ竿をたたみ早々と退散するだろう。

生来、自然、野生動物に人一倍好奇心が旺盛な愚生はこの熊の奇異なる行動に大いなる疑問を抱く。又二度とあのヒグマは現れないだろうと勝手にあまり根拠のない確信を抱き、用心深く釣りを再開し、熊の痕跡をチェックする。
熊と出遭った場所から泳いできたと思われるポイントに釣り下がる。同じ様に素晴らしいポイントの連続する流れだ。

所々に先ほどの熊が川から岸にあがり大きく身震いした痕が点在しており、川原を何度も行き来したと思われる出来たての大きな足跡、水飛沫があちこちにみられた。案の定、魚は警戒して全く食い付いてこない。

熊もきっと寒いに違いない、長時間、川に入っていられないのだろうが不思議な行動だ。

何故、熊が寒中に川の中を真剣に顔を沈めて泳ぎ、潜ったりしていたのだろうか、そして川原を何故、何度も往復していたのだろうか。

熊の内眼瞼にある瞬膜はお魚さんと異なり殆んど退化しているので、水中で熊の網膜に写し出される画像はオートフォーカスながらも地上と同じ鮮明な画像が得られるとは思えない。
にも拘らず、薄曇りの中、6メール先の水中から愚生のウェーダーを確認できたという事から察すると、或いは水中でも可也の視力があると判断してもあながち間違いではないのだろうか。

やがてそれらの問いに対する答えは簡単に、しかも直ぐにみつかる。

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500mも釣り下がった所で急流がゆるやかになり、川幅が広く、浅くなった所にある大岩に隠れるように又もや疑わしい’もの’が目に入る。

一瞬、又かと思ったがよく見ると全く動かず、茶色の肌に数列の綺麗な白斑が混じっている1.5m位の中動物が流されてきて大岩に引っ掛かっている。

小熊でない事を確認してから静かに近づくと、息絶えているよく肥えた70kg位のメス鹿であった。

川に半身浸かっているので当然温もりはなかったが死後強直はまだ始っておらず、左胸部の裂創部から血液が流失、血液凝固はまだみられない、つまり絶命して間もないという事である。

この冬眠前の大熊は崖から転落した大事な餌になる鹿を真剣に探していたのだろう。

でも鹿がはたして通い慣れたる崖から簡単に落っこちるものなのだろうか?

そうこうしている間に待ち合わせの時間に大きく遅れた愚生の危険を察知した友人が遠くより血相を変え走って来るのが目に入った。

                        -続く

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2008年2月 3日 (日)

死を覚悟した瞬間-後退する熊

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やがて熊は驚いた行動をとる。

なんと熊は愚生を睨みつけたまま少しずつ、ほんの少しずつではあるが後退りするではないか。

しかし絶対に愚生の眼から視線をずらさず、後ろを決して振り返る事もなく、静かにまるで後肢の掌面に全ての知覚神経を集中しているがの如くゆっくり、ゆっくりと後退する。

やがて熊は川から岸にあがり後退りを止め、その距離8mになる。

水中に沈んで見えなかった熊の肢が現れる、よく視ると毛で覆われた大きな掌の前面に黒光りする太くて短い、まるで鋼の様な爪がある事が分かる。

さあその強烈な武器でいよいよそこから岸伝いに近づき、一気に襲ってくる気なのか。

熊が覆いかぶさってきたなら、そしてもし一発で遣られなかったなら川の中で取っ組み合いも覚悟する。

何時もポケットに護身用に携帯しているバックのナイフの事など恐怖のあまり全く思いもつかず、背中にあるザックを素早く捨てなければ邪魔になるなんて、今思えば間抜けな、ピントのずれた事しか思いつかない。

こいつが川原の8m先から前進して来るなら、いよいよ.....。

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所がなんということだろう、

信じられない事に熊は愚生を真正面に見据え睨んだまま、再びほんの少しずつではあるがゆっくりと後退りをはじめるではないか。

やがてうれしい事にその後退速度が少しずつ、ほんの少しずつ速まる。

熊は大きな石がごろごろ転がっている川原を後方を振り向く事はせず器用に後退し続け、愚生との距離が20mと開いたとき、熊ははじめて目線をそらし後方を一瞬ながら振り向く。

その後も熊は此方を睨みながらゆっくりと後退、数回後ろを振り返り、愚生との距離が約30m位になった時に素早く向きを変え、駆け足で対側の急峻な崖を登り、鬱蒼とした藪の中に駆け込み消えた。

助かった瞬間だった、

川の中にぽつんといた愚生、やっと身動きが取れるようになり、流されないようにゆっくり川からあがり大汗を拭う、何ともいわれぬ安堵感におおわれた事を覚えている。

この勝負は愚生の勝ちだ、まさに地獄から天国への瞬間であった。

愚生が熊をさきに見つけて逃げなかった事が幸いしたのではなく、きっと逃げられない場所にいた事が幸運をもたらしたのだろう。

熊と愚生のこの勝負、互いに川の中でなかったなら結果はどうなっていたのだろう。

                     -続く

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2008年2月 2日 (土)

死を覚悟した瞬間-熊の威厳

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熊のあまりにも小さな目から発する凄味、微動だにしない凄まじい威圧感、全ての生き物を見下してしまう眼光で愚生の眼を睨み続ける、愚生の心臓は口から飛び出すほどの勢いで勝手に高鳴っている。

愚生から絶対に視線をそらさず、恐怖感を与え、威嚇し続ける。

この熊はあまりにも冷静で威風堂々としている、威厳すら感じさせ、無表情の強烈な怖さをもっている。

人は危機的一瞬に遭遇した時、過去の事が走馬灯の様に脳内を流れるという。まさしく愚生も瞬時に自らの過去の悪行事が、そして仕事の事等が頭の中を過ぎった。

しかし熊は何故かそれ以上距離を縮めようとはしない。

そして睨み付けたままである、

全く動かない、

愚生は後ろからの急流に靴底を取られまいと熊を真正面に見据えてやや膝を曲げ、両手を熊に向けて斜め上に挙げ、左手に持っている釣り竿も同じ様に熊に向かって斜め上方に大きくかかげる体勢をとる。

何とか少しでも此方を大きく見せる浅はかな魂胆である。

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それでも靴底の砂利が急流で洗われるので時々よろけたり、滑りそうになる。

もしもよろけた時に竿先が熊の顔にでも触れれば熊を怒らせてしまうので細心の注意を払いながら、時々靴の位置を変えなければならない不安定な危ない所に突っ立っている。

さあいよいよ愚生vs熊の睨み合い合戦が始まる。

凄まじいプレッシャーに耐え5分.....そして10分経過、

・・・

あふれるほどのあぶら汗を噴出しながらも何故か、過去の至らなかった人生のある場面が次々に現れては消える、

不思議な事だ、

・・・

なおも互いに無言ながら、互いに睨みあう。

だが不思議な事に熊はまだ襲ってこない、

吼えもせず、立ち上がろうともせず、水面を叩きもしない、

渓流の岩にぶつかる音のみが耳に入るだけである。

互いに絶対に視線をそらさず凄い心理戦はまだ続く。

                         -続く

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